「特産品」の対応遅れた県無登録農薬の周辺−中− 害虫に悩んで使用 事実上黙認 長野市松代町の県野菜花き試験場。 約三.八ヘクタールの実験農場の一角にあるパイプハウスを借りて、 県農業総合試験場(須坂市)は今夏、トマトやピーマンなどを対象に登録されている農薬を、 対象外のアスパラガスに散布した。 残留度合いや効果、薬害がどの程度あるか調べ、安全な散布方法を確かめるためだ。 現在は試験データをまとめている最中で、来年七月に農林水産省などが東京で開く農薬成績検討会にデータを提出する。 基準を満たしていると認められれば、農薬メーカーがアスパラガスへの適用を登録申請することになる。 県がデータを農薬メーカーに提供するのは、全国的に生産量の少ない農作物は採算が合わないため、 農薬メーカーが実証データをそろえず、結果、登録農薬の種類が少なくなるためだ。 このようにメーカーに代わって行政が試験データを取るのは、農水省が一九七三(昭和四十八)年に始めた事業。 県はこれまでに、アンズや畑ワサビ(陸ワサビ)、 健胃剤に使われるセンブリ(リンドウ科)など計十九作物の二十八農薬について実証データをメーカーに提供、 これを基にメーカーが登録してきた。 しかし、登録農薬がない安曇野特産の水ワサビについては、県はこれまで、こうした取り組みをしてこなかった。 しれは、水ワサビについて登録農薬が必要との報告が現場から上がってこなかったからだという。 一方で、生産者からはこれまで幾度も、地元の県農業改良普及センターに悩みが寄せられていた。 「アブラムシが水ワサビの葉に付いたので困っている。 やっつける農薬を知らないか」。 旧南安曇農業改良普及センター(現・松本農業改良普及センター豊科支所)に、 生産者から相談が持ち掛けられたのは数年前たっだ。 当時の所長は「水ワサビには農薬を使えない。 シートをかけて虫を防いで」と担当者が指導したのを覚えている。 しかし、生産者がどう対応したのかは確認しなかった。 県野菜花き試験場の害虫担当研究員は九七年から、 南安曇郡穂高町の水ワサビ農家のワサビ田約十五アールで害虫防除実験をしてきた。 害虫に悩まされる生産現場を目の当たりにし、使えないはずの農薬が使用されていることも「うすうす承知していた」という。 水系へ垂れ流される農薬が水を汚染することを危ぐしながらも事実上、黙認した。 「農薬禁止の指導は現地に農薬改良普及センターの仕事」だと思った。 生産者の訴えが届かなかったことや、縦割りの考え方が県に対策の遅れを招いたことは否めない。 農薬取締法施行令では、農薬使用者への指導は県の役割で、 鮎沢光昭・県農政部長は「県が農家の現状を知らなかったでは、済まされない」とする。 県や市町村は、各地の特色を生かした特産農作物の振興に力を入れてきた、 優良農地に恵まれていない県内では、他地区で作ってない農産物にあえて取り組み、 「希少」という付加価値を見いだしていくしかなかったからだ。 しかし、現状では水ワサビ以外にも、病害虫の種類に比べて、使用できる農薬の種類が少ない「特産品」は数多くある。 「正直、農薬に対する視点は抜け落ちていた」。 特産品振興を担当する県園芸特産課の白沢勝課長は、自戒を込めてそう言う。 「安曇野が誇る美しい季節をバックに、ていねいに、大切に育ててきたものがあります。 ピリッと辛くておいしいわさび・・・」。 穂高町の観光パンフレットに、誇らしげに書かれた宣伝コピー。 今回の農薬使用問題が、貴重な観光資源に与える影響は小さくない。 |
| 信濃毎日新聞 2002年9月23日 |
| 【もどる】 |